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新しい卵巣刺激法、PPOSについて

2020.10.31
お知らせ
医局より

ホームページをご覧のみなさまへ

本日は新しい卵巣刺激法、PPOS(Progestin-primed Ovarian Stimulation)を紹介したいと思います。

体外授精において、卵巣刺激法の選択は非常に重要です。
当院では、体外受精前に血液検査や特殊超音波検査の結果、治療歴、ご年齢等を総合的に評価した上で刺激方法を決めています。

卵巣刺激法としては、Long法、Short法、Anagonist法、低刺激法等が一般的によく使用されていましたが、現在PPOSという新しい卵巣刺激法が広がりつつありますので紹介します。

PPOSとは卵巣刺激の際に黄体ホルモン剤を併用する方法であり、2014年頃からその有効性についての論文が発表されています。

黄体ホルモンは排卵後の黄体から分泌されるホルモンであり、子宮内膜の着床環境を調整する妊娠成立に必要不可欠なホルモンであると同時に、排卵抑制効果があります。
ご存知の通り、卵巣刺激中は排卵に注意する必要があります。
Long法、Short法では排卵抑制作用のあるGnRHアゴニスト(点鼻薬)を使用していますので基本的に排卵しませんが、Antagonist法、低刺激法では、卵胞がある程度発育すると排卵抑制剤を追加する必要があります。排卵抑制剤としてはアンタゴニストという薬剤を用いますが、長期の使用は胚質低下の一因になるので、アンタゴニストの開始時期を見極める事は良好な胚を得るために重要であり、これが患者様の来院回数が増える一因にもなっていました。

PPOSは、Anagonist法や低刺激法に黄体ホルモン剤を併用することで、アンタゴニストを投与する必要がなくなります。その結果、アンタゴニストの長期投与による胚質低下を防ぐだけでなく来院回数の減少、コストの削減にもなるというメリットがあります。
肝心の胚質や妊娠結果ですが、現在までの比較試験では、黄体ホルモンを併用することで胚質や妊娠率が低下することはないという意見が現在一般的です。

当院では10年程前から、多くの医療機関と連携して、がんに罹患した方の妊孕性温存に取り組んでいます。その中でランダムスタート法という黄体ホルモン下での卵巣刺激を既に多く経験しており、そこで得られた当院でのデータからも胚質や妊娠率は通常の方法と変わりないことがわかっています。さらには症例によって、通常の方法より良い結果が得られてる方もおられます。

つまり、PPOSは排卵しやすい方、通常の方法では良好胚が確保できない方、PCOSの方等に有効と考えています。現在、黄体ホルモンの内服剤には様々な種類がありますが、その違いによっても胚質や妊娠率が変わる可能性が指摘されています。つまりPPOSは今後もさらに改善していける余地がある方法と捉えています。

これからも当院では、信頼できる知識やデータを得ることに努め、少しでも妊娠の可能性が上がる方法を模索し、実際の治療に還元していきたいと考えています。