不育症・遺伝外来

最近、習慣性流・死産を特徴とする不育症の治療が進歩しています。
いくら妊娠しても途中で子どもを失うことは大きな悲劇です。
赤ちゃんを抱いて帰ってもらってこそ意義があると考えています。
IVFなんばクリニックでは様々な最新の不育治療を実施して、そういう方の出産にこぎつけています。
染色体異常や遺伝病の方を含め、不育症の方を対象とした特殊外来を行っています。医師を中心とし、遺伝カウンセラー、心理カウンセラー、栄養カウンセラーが統合的に治療に携わります。

不育外来

妊娠はされるものの流産や早産・死産を繰り返し、赤ちゃんを得られない不育症の方を対象としています。
多くの施設では2回連続して流産した反復流産、3回連続して流産した習慣性流産に対して不育症の検査を行っていますが、当院ではたとえ1回の流産のみでも希望があれば検査を行っています。一般的に流産の6〜7割は胎児の染色体異常によるものですが、残りの3〜4割は適切に治療すれば流産を防ぐ可能性があります。 流産は流産手術やホルモン変化による身体的なダメージに加えて、赤ちゃんを喪失した心の傷も大きく、精神的なケアの重要性から心理カウンセリングが必要となります。

不育症の基本的な検査項目

1 問診・基礎体温
2 内分泌検査 ・プロラクチン
(高プロラクチン血症の有無)
・甲状腺ホルモン
(甲状腺機能異常の有無)
空腹時血糖、インスリン
・(耐糖能異常の有無)
3 子宮卵管異常の検査
(子宮筋腫、子宮奇形や卵管水腫など)
・超音波検査
・子宮卵管造影検査
・子宮鏡検査
4 夫婦染色体検査 ・染色体検査
5 自己免疫異常検査 ・抗核抗体、ループスアンチコアグラント、抗リン脂質抗体
6 血液凝固検査 血小板凝集能、PT、APTT、フィブリノーゲン、第12因子、プロテインC活性、プロテインS活性、AT-Ⅲ、トロンピンアンチトロンビン複合体
7 同種免疫異常検査 ・ナチュラルキラー細胞活性検査
・リンパ球混合培養検査
8 子宮内膜異常検査 子宮内フローラ検査
子宮内膜着床能検査(ERA)

遺伝外来

染色体異常や遺伝病を有する方を対象としています。
不妊症や不育症には染色体異常の頻度が高くなります。染色体異常や遺伝病と診断された場合、染色体または遺伝子そのものを治療することはできませんが、今後ご本人にどのような症状が生じる可能性があるか、また、子供ができる可能性があるのかどうか、子供に何らかの影響が生じる可能性があるかなどについて、わかる範囲でのより多くの情報を提供し、今後の治療を決めていくようにします。当院での遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーが行います。

当院では2010年12月に着床前診断の施設認定を受けて以来、2回以上の流産を経験され、染色体転座をもたれている方に対して、着床前診断を治療の選択肢として提供してきました。着床前診断を多くの方が受けられ、お子さんを出産されています。
また、2020年には、日本産科婦人科学会が開始した「着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の有用性を検討する多施設共同研究」の施設承認を受けています。この共同研究は、①体外受精・胚移植反復不成功の方、②反復流産の方、③染色体構造異常の方が対象となっています。
着床前診断に関するご相談は、臨床遺伝専門医または、認定遺伝カウンセラーがお伺いします。

不育症の原因と治療

1.感染症

頸管や子宮内で感染症が生じていると流産の原因となります。代表的なものにクラミジア感染症があります。
クラミジア感染症は若い女性を中心に年々増えている感染症で、症状が乏しいために自覚のないうちに腹腔内感染にまで進みます。
クラミジアが腟から子宮や卵管へと入っていくと、卵管内腔の狭窄や閉塞、卵管周囲の癒着をひきおこし子宮外妊娠や卵管不妊の原因にもなります。
妊娠中のクラミジア感染では赤ちゃんを包む膜である絨毛羊膜に炎症が生じ、子宮収縮をおこして流産や早産の原因となります。
クラミジアの検査には抗原検査と抗体検査があります。抗原検査は子宮頸管にクラミジアが存在するかを調べます。この抗原検査が基本となります。クラミジア感染にかかったことがあるかどうかを調べるためには、クラミジア抗体検査が必要となります。
治療はジスロマックを1回服用します。1回の服用で治すことができますが、治るまでに7日間位かかります。また、パートナーも同時に治療することが必要です。

2.内分泌異常

黄体機能不全

排卵したあとの卵胞は、黄体化し黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌します。 この黄体ホルモンは子宮内膜に作用して着床環境を整え、さらに妊娠後の赤ちゃんの発育を維持する働きをします。黄体ホルモンが十分に分泌されない場合が黄体機能不全であり、不妊・不育症の原因の一つと考えられます。 治療には、黄体ホルモン剤の補充や良好な卵胞をつくるための排卵誘発剤内服があります。

高プロラクチン血症

プロラクチンは母乳を分泌するために必要なホルモンです。そのプロラクチンが高い場合には、良好な卵胞が形成されず黄体機能不全となります。 治療には、カバサールやテルロンなどの薬の内服があります。  ただ、プロラクチン値が非常に高い(100ng/ml以上)場合は、脳下垂体の腫瘍が疑われますのでMRI等の精密検査が必要となります。

甲状腺機能異常

甲状腺機能異常には機能低下症と機能亢進症があり、ともに流産に関連していると考えられています。甲状腺機能低下症は高プロラクチン血症を引き起こします。また、甲状腺機能異常は、自己免疫異常と関連していることがありますので、抗甲状腺抗体の測定が必要です。 甲状腺機能異常がある場合には、内科の専門医による精密検査や治療が必要となります。甲状腺の評価は不妊や不育の方は通常の正常範囲よりきびしい正常値となります。注意が必要です。

糖尿病

高血糖の状態では、胚や胎児の細胞分裂や代謝過程に異常をきたす可能性が考えられています。 そのため、糖尿病と診断されている方は内科の専門医のもと、妊娠前から血糖値を正常にコントロールする管理が必要です。

3.子宮異常

子宮形態の異常は不育症の約8%に認められます。子宮形態の異常には、先天性の子宮奇形(双角子宮、中隔子宮、単角子宮など)、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮腔癒着症などがあります。子宮の形態異常があると、子宮内の血液の流れが悪くなり、赤ちゃんは十分な栄養がもらえず発育障害が生じると考えられています。
子宮形態異常は、超音波検査、子宮卵管造影検査、子宮鏡、MRI画像法などによって診断できます。
治療には、子宮形成術、子宮筋腫核出術などの手術療法が最も有効です。子宮奇形に対する子宮形成術後の妊娠継続率は70~80%以上という報告が多く、手術療法が有効と考えられます。子宮形成術や子宮筋腫核出術などの開腹手術では7~10日の入院、腹腔鏡下手術で可能な場合の入院期間は約1週間です。子宮内腔に突出している粘膜下筋腫や中隔子宮に対して腟から行う子宮鏡下手術では、術後の痛みもほとんどなく、入院も短くてすみます。
手術後に多くの方が妊娠され、赤ちゃんに恵まれています。

4.染色体検査と染色体異常

染色体とは、人を形作る遺伝子が集まってできた46本からなる構造物です。その染色体の数や形に異常が存在する場合は、不妊や不育症になることがあります。
不育症の夫婦では、約5%に夫婦のどちらかに染色体異常が認められます。染色体異常が存在すると、高い割合で赤ちゃんに染色体の異常が生じ、それが流産の原因となります。染色体異常の多くは転座といわれる染色体が入れ替わっている異常です。
夫婦の染色体検査(血液)は、採血により約4週間で結果がわかります。ただ、この検査は遺伝情報を知る検査ですので、実施前には遺伝カウンセリングが必要となります。
染色体異常や着床前診断に関しての詳しい情報は、遺伝カウンセリングを見て下さい。

5-A.自己免疫異常

私たちの体の中に細菌やウィルスなどの自分以外のものが入ってくると、それを排除しようとする働きを行うものに抗体があります。自己抗体は自分自身の組織に対して生じた抗体であり、免疫反応の調節や老廃物の除去に役立つために健康人でも少量は存在します。しかし、自己抗体が過剰に作られると、免疫に異常が生じて身体に異常を来すようになります。これが自己免疫異常であり、膠原病はその代表疾患です。
以前より自己免疫疾患(特にSLE)の患者に流産の多いことが知られており、母体の免疫異常 により子宮内の血栓という現象を介して妊娠維持に障害を起こすことが指摘されてきました。最近になって、それが抗リン脂質抗体という自己抗体によって引き起こされるということがわかってきました。
リン脂質とは細胞膜に多く含まれる成分であり、そのリン脂質に対して生じた抗体が抗リン脂質抗体です。血管内の細胞のリン脂質と抗リン脂質抗体が反応することにより、血管内に血栓が生じ、流産となると考えられています。
当クリニックでは自己免疫異常の検査として、以下の抗リン脂質抗体をはじめとする自己抗体を調べています。

  • 抗核抗体(ANA):細胞の核内にある抗原と反応する自己抗体の総称
  • 抗カルジオリピン抗体 (抗CLIgG,IgM)
  • 抗ファチジルエタノールアミン抗体(抗PEIgG,IgM)
  • ループスアンチコアグラント (LAC)
  • 抗カルジオリピンβ2-glycoprotein 1抗体 (β2GPⅠ)

6-A.血液凝固異常

凝固因子や血小板などに異常がある場合、血栓を形成しやすくなります。それが流産の原因となります。

  • プロトロンビン時間(PT)
  • 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)
  • 血小板凝集能(PAP):凝集能が高いと血栓が生じやすくなります。
  • 凝固活性12因子:活性の低下により、血栓が生じやすくなります。
  • アンチトロンビン-Ⅲ:活性の低下により、血栓が生じやすくなります。
  • プロテインC活性、プロテインS活性:活性低下により血栓が生じやすくなります。

5-B & 6-B. 自己免疫異常および血液凝固異常の治療

治療は自己免疫異常、血液凝固異常とも、血栓形成を抑制する治療になります。
第一選択:低用量アスピリン療法(抗リン脂質抗体陽性なら柴苓湯の併用)
第二選択:低用量アスピリン+ヘパリン療法(重症の場合は第一選択)

抗血小板療法(低用量アスピリン療法)

アスピリンは、痛み止めや熱冷ましの薬として知られています。子どもが内服する少量のアスピリンを大人が内服すると、血液をさらさらにする効果(血栓予防効果)が認められます。内服のみの簡便な治療のために、まず第一に行ってみる治療です。この治療のみで、8割以上の方が妊娠・分娩に成功されています。
当院では胃に優しいバイアスピリン100mgを、着床前の排卵直後(または胚移植後)から内服してもらいます。妊娠が成立した後は妊娠8〜9週または妊娠35週頃(または妊娠28週頃)までの投与をお勧めしています。アスピリンによる副作用は母児ともにほとんど認められません。

抗凝固療法(ヘパリン療法)

ヘパリンは、血液をさらさらにする抗凝固作用だけでなく、抗リン脂質抗体の活性を直接抑える作用を持つ注射剤です。低用量アスピリンなどの内服治療で効果が認められなかった場合、抗リン脂質抗体が非常に高い場合、3回以上繰り返し流産となっている場合などに行っています。ヘパリン治療は原則持続的な点滴で行うことや、出血傾向などの副作用があるために、入院による治療を行っております。当院では妊娠12週頃までの入院をおすすめしています。低用量アスピリンを内服しながら、ヘパリン5000~10000単位/日を持続点滴します。
ただ、自己注射による在宅での治療(カプロシンまたはオルガランを用います)も、自己注射の指導を受けられた後に行うことはあります。
ヘパリン治療の副作用は、頻度は高くないですが、出血傾向、血小板減少、骨密度の低下があります。
副作用のチェックのためにヘパリン開始1週間目と2週間目に採血を行っています。

免疫抑制療法

抗リン脂質抗体が高い方は副腎ステロイド(プレドニン)、柴苓湯などの免疫抑制療法を行うことがあります。 プレドニンは自己免疫疾患などの治療で広く用いられる薬剤ですが、感染症が生じやすくなることによる流産早産、糖尿病、消化管の潰瘍、骨粗鬆症の危険性が高くなるなどの副作用があり、内服する場合は妊娠初期のみがよいと考えています。
弱いものの副腎ステロイドに似た作用を持つ漢方薬に柴苓湯があります。副作用がほとんど認められないことから、抗リン脂質抗体が高い方に内服することをお勧めしています。

7.同種免疫異常

母親の卵子と父親の精子からできている胎児(赤ちゃん)は、母親にとって一種の異物と考えられます。しかし、妊娠中の子宮は、赤ちゃんを排除することなく出産まで育てることができる免疫環境を備えています。赤ちゃんを異物として攻撃する作用が強い場合やその攻撃から赤ちゃんを守る作用が弱い場合には、赤ちゃんは発育することができなくなります。そのバランスの崩れが同種免疫異常です。

診断法
リンパ球混合培養検査(MLC)

攻撃から赤ちゃんを守る働きをする遮断抗体がどのくらいあるかを調べる検査です。 ご夫婦の採血を行い、不活性化させた夫リンパ球に対する妻リンパ球の反応性を、妻の血清または対照の血清を加えたものとを比較した値から判定します。

ナチュラルキラー細胞活性(NK)

母親の赤ちゃんへの攻撃する強さを調べる検査です。NK細胞は胎児の絨毛発育を阻止する因子に関連している可能性が高いと言われています。

治療

リンパ球混合培養検査またはNK細胞活性のどちらかに異常がある場合に、夫リンパ球免疫療法を行います。
以前より夫リンパ球免疫療法は広く行われていましたが、有効性と安全性が証明されていないとの報告によりその実施施院は減ってきております。ただし当院では、適切な方を選択することにより有効性があるとする報告も認められ、当院で今までに大きな副作用もなく、また有効性を示した症例を経験しているために、安全性を可能な限り確保して夫リンパ球免疫療法を行っています。

夫リンパ球免疫療法

夫のリンパ球を妻に接種することにより、妻の体に遮断抗体を作り、胎児を守る子宮内環境にする治療法です。
<<方法>>
夫から採血を行います。血液よりリンパ球のみを抽出し、リンパ球が持つ過剰免疫反応を抑えるために放射線処理を行います。処理した夫リンパ球を、妻の腕に4ヶ所に分けて注射します。 初回は、約2週間おきに4回行います。その後は6ヶ月-1年毎に2回追加します。妊娠後もできるだけ早い時期に2回追加します。

※夫リンパ球免疫療法ができない場合

  • 自己抗体が陽性の場合(症状が悪化する可能性があるため)
  • 夫に感染症がある場合

<<副作用>>
一時的に、注射部位が赤く腫れたり、しこりができたり、38度位の発熱が生じたりすることがあります。 また、肝機能障害が生じることがあります。

8.子宮内フローラ検査

子宮内には様々な細菌が存在しています。近年の研究では、子宮内の乳酸桿菌(善玉菌)が多いと着床しやすく流産しにくい環境になることが示されています。
子宮内腔液を採取し細菌叢を調べ、乳酸桿菌が少ない場合には治療を行います。(詳しくはこちら

9.子宮内膜着床能検査(ERA)

体外受精において、複数回移植を行ってもうまく着床しない場合に行う検査になります。 子宮内膜を採取し着床に最適な時期を調べる検査です。(詳しくはこちら

遺伝カウンセリング

遺伝カウンセリングは遺伝子や染色体に関連したことがらについて、ご相談を受ける場です。
不安に感じておられること、疑問に思われていることを伺い、それらについて適切な情報を丁寧にわかりやすくご説明いたします。きちんとした知識を得たり、情報を整理することで、さまざまな不安や悩みが軽減される場合もあります。
また、遺伝や妊娠に関する心配や不安、これらをめぐってご家族の間で生じる悩みについても、ゆっくりお話ししていただき、皆様が十分に納得して次の一歩を踏み出せるよう、お手伝いさせていただきます。
遺伝カウンセリングを担当するのは、専門教育を受けた認定遺伝カウンセラーです。 他にも必要に応じて医師や看護師、胚培養士、心理カウンセラー、栄養カウンセラーなどと連携して、皆様をサポートいたします。