着床前検査

このページをご覧いただき、当院で着床前検査を希望される方は、初診予約申し込みの際必ずその旨をお申し出いただくか、認定遺伝カウンセラーまでご連絡いただきますようお願いいたします。

着床前遺伝学的検査(以下着床前検査)とは

1990年ごろから始まった受精卵の診断法です。日本では、2004年に臨床研究として始まりました。
着床前検査は、体外受精で得た受精卵から細胞の一部を取り出し、正常と診断された胚を子宮に移植する治療です。

当院での着床前検査

当院では、日本産科婦人科学会の会告・見解に基づき、実施施設認定を受け、着床前診断を実施しています。実施施設認定月日は以下のとおりです。
2010年12月 習慣流産の着床前検査(PGT-SR)
2016年12月 単一遺伝子疾患の着床前検査(PGT-M):プライベートクリニック国内初
2020年 1月 着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の有用性を検討する多施設共同研究

着床前検査の対象は?

PGT-M:医学的に重い遺伝性の疾患が子どもに伝わる可能性のある方

PGT-M:Preimplantation Genetic Testing for Monogenic

  • 重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある遺伝子変異を持つ方

※ 重篤な遺伝性疾患とは成人期までに日常生活を強く損なう症状が発現したり、生存が危ぶまれる疾患

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PGT-SR:染色体の形の変化(染色体均衡型構造異常)がある方

PGT-SR:Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangement

  • 染色体構造異常の方
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PGT-A:母体年齢に依存して発生率が上昇し、誰にでも偶発的に起こりうる染色体異数性異常を調べる方

PGT-A:Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy

A)反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する方

B)反復する流産死の既往を有する方

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着床前検査の治療のながれは?

体外受精を行い、胚盤胞期胚(分割期胚)まで育てた胚から細胞の一部を取り出し、検査を行います。

着床前検査の治療のながれ

着床前検査と治療のながれ

PGT-M に該当される方

PGT-M について

PGT-Mは、家系内に固有の重篤な遺伝性疾患を発症する可能性のある方に対して、その遺伝子の変化を調べます。疾患によっては、妊娠後の出生前診断の選択肢もありますが、望まない結果による身体的、精神的負担は大きく、これらを避けることにも繋がります。PGT-Mでは、疾患を発症する可能性のある胚の移植を避けることで、妊娠後の精神的負担を軽減することが期待されます。
生まれてくることのできる胚の移植を避けることが、「命の選択」につながると考える人もいます。重篤な遺伝性疾患に対する考え方も一人ひとり違い、社会情勢の変化とともに少しずつ変わってきています。
それぞれの疾患に対して、臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーから詳しく説明し、一緒に考えさせていただきます。

対象となっている疾患

当院で申請・承認された疾患 (2017年~2022年5月まで)

承認症例数
1. デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) 10
2. 副腎白質ジストロフィー(ALD) 5
3. ペリツェウス・メルツバッハー病(PMD) 1
4. MECP2重複症候群 1
5. ペルオキシソーム病(PBD9) 1
6. Walker-Warburg syndromeWWS 1
7. 脊髄性筋萎縮症(SMARD1) 1
8. CAMRQ2 1
9. 先天性多発性嚢胞腎(ARPKD) 1
10. 筋強直性ジストロフィー(DM1) 7
11. SOX2 眼関連疾患 1

日本産科婦人科学会で承認された疾患
(2017年9月日本産科婦人科学会小委員会報告より)

  1. 福山型筋ジストロフィー
  2. Leigh脳症
  3. 先天性ミオパチー
  4. 骨形成不全症Ⅱ型
  5. 成熟型遅延骨系異形成症
  6. 拘束性皮膚障害
  7. オルニチントランスカパミラーゼ欠損症
  8. 高乳酸高ピルビン酸血症
  9. ムコ多糖症Ⅱ型(ハンター病)
  10. グルタル酸尿症Ⅱ型
  11. X連鎖性遺伝性水頭症

PGT-M 実施まで

PGT-Mは、症例ごとに日本産科婦人科学会、院内倫理委員会への申請・承認が必要です。申請までの流れは次のようになります。

PGT-M 実施まで

採卵から検査が出るまでの流れはこちら

PGT-M の問題点

  • 自然妊娠で妊娠されている方も、体外受精を行わなければなりません
  • PGT-Mは、疾患によって検査方法が異なるため、事前検査が必須となります。体外受精費用と着床前検査の検査費用に加えて、事前検査費用がかかります。
  • 体外受精は一般的な治療になってきてはいますが、女性の体への負担が全くないわけではありません。
  • 体外受精を行っても、検査できる受精卵が得られるとは限りません。
  • 受精卵から細胞を取り出して検査をする際、胚に損傷を与える可能性があります。
  • 診断した胚がすべて移植に適さない胚と診断され、移植できないことがあります。
  • 胚移植することができた場合も、必ずしも妊娠できるとは限りません。
  • 遺伝子検査と併用して、染色体の異数性を調べることはできません。
    そのため、妊娠を望むすべてのカップルに15~20%の確率でおこる流産の可能性を下げることはできません。
  • 検査方法により児の性別が判明しますが、性別の開示、選択はできません。
  • 検査精度は100%ではなく、また、検査方法により検査精度は異なります。
    より正確な遺伝子検査を希望される場合は、妊娠後に羊水検査が推奨されます。
  • 新しい治療法のため、生まれてきた児に影響がないとする報告がほとんどですが、児に対する長期的な影響はわかっていません。

PGT-M の治療成績(2017年〜現在まで)

採卵の成績
累積
実施症例数 18症例
実施周期数 40周期
採卵数 378個
正常受精数 274個
生検胚率
(生検胚/正常受精卵)
50.7%
(141/278)
再生検率
(再生検/生検胚)
9.2%
(13/141)
移植可能胚率
(非罹患胚)
(移植可能/生検胚)
63.8%
(90/141)
胚移植の成績
累積
胚移植周期 46周期
妊娠率
(妊娠/移植周期)
52.2%
(24/46)
流産率
(流産/着床胚)
33.3%
(8/24)
出生数
(妊娠継続中)
16人
(5人)

出産された方からのメッセージ

私自身が難病の保因者であった為、着床前診断を目的としてIVFなんばでの体外受精を選択しました。
治療の為に、他院でのカウンセリングや遺伝子検査のできる病院への紹介、倫理委員会とのやり取り等、IVFなんばを越えた連携も必要でしたが、スムーズに準備や案内をして頂けたので時間を無駄にすることなく治療に進むことができたと感謝しています。
治療は、痛みや不安がゼロではありませんでしたが、先生をはじめとした医療スタッフの方々や、クリニックの設備・サービスがリラックスできる環境を整えて下さっていたので、 緊張はしたけれど、安心して治療に取り組めました。
何より魅力的だったのは、全てのスタッフさんが患者の不安や喜びに寄り添う気持ちを持っていると感じられる対応だったことです。
ありがとうございました。

3022グラムの可愛い女の子を出産しました。
先日、2週間検診に行きましたが、「元気です。問題ないです。」と小児科の先生に言われて、とても安心しました。
着床前診断をしていても、生まれてくるまで本当に心配でしたが、大きな声で泣き、一生懸命ミルクを飲む姿を見て、元気だなぁ、良かったなぁという気持ちでいっぱいです。
とても幸せな時間を過ごせていて本当に嬉しいです。
中岡先生、遺伝カウンセラーには、とてもお世話になりました。
治療中は、肉体的にも、精神的にも、辛い事もありましたが、スタッフの皆さんに支えられてここまで辿りつくことが出来ました。
本当にありがとうございました。

単一遺伝子疾患の着床前診断と経て、2019年7月に元気な男の子を出産することができました。
着床前診断をというまだまだ実施している医療機関の少ない技術に不安もありましたが、中岡院長や遺伝カウンセラーさんに親身になって話を聞いて頂き、承認申請にも迅速に動いてくださったお蔭で安心して治療を受けることができました。
正常胚移植の1回目で無事妊娠し、出産までこられたのも、偏に先生方のお陰だと思います。お願いして本当に良かったです。
遺伝疾患で妊娠に悩まれている方は是非、一度こちらで相談してみてほしいなと思いました。 本当にありがとうございました。

遺伝子検査の方法

PGT-Mでは少ない細胞から、遺伝子検査を行うため、検査精度の向上を目的に、2つの検査法を組み合わせて行います。
どちらの検査も、調べ方、調べる場所が疾患と遺伝子変化の状況により異なります。

直接法

遺伝子変化の有無を直接調べる方法です。
遺伝子変化の種類に一番適した方法を使って検査を行います。

間接法

遺伝情報は、親から子に半分ずつ引き継がれていきます。
遺伝子は染色体を通じて、親から子に伝わります。(図1参照)

染色体上には、特異的な情報(Short Tandem Repeat:STR)が存在します。
STRの特異性は、遺伝情報(DNA)の繰り返しの回数を調べることで確認します。STRは、遺伝子とともに両親の異なるものが子に引き継がれるため、それを調べることで染色体と遺伝子の伝わり方を確認することができます。

PGT-SR に該当される方

PGT-SR について​

PGT-SRは、染色体の形の変化(染色体均衡型構造異常:構造異常)が原因となる染色体の過不足を調べます。流産の原因と考えられる過不足のある染色体の形の変化(染色体不均衡型構造異常)がある胚の移植を避けることで、流産率を下げることが期待されます。​
しかし、染色体以外の理由での流産もあり流産を完全に防ぐことはできません。また、現在の検査技術では、過不足がないと診断された胚も均衡型構造異常か、正常核型かを区別することはできません。​
構造異常の方は、流産の起こる可能性が一般の方より高くなりますが、PGT-SRを受けなくてもその60%以上が最終的には児を得られたという報告もあります。ただ、流産を減らす唯一の方法はPGT-SRです。​
PGT-SRについては、臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーから詳しく説明し、一緒に考えさせていただきます。

対象となる方​

ご夫婦のいずれかに染色体構造異常が確認されている方​

【注釈】​
PGT-SRは、2022年日本産科婦人科学会の見解改定により「着床前胚染色体構造異常検査」という位置づけになりました。習慣流産の既往歴がない方も対象です。日本産科婦人科学会への個別申請も不要になり、治療開始までの時間が大幅に短縮されました。

PGT-SR 実施まで​

採卵から検査が出るまでの流れはこちら

染色体検査の方法

こちらへ

PGT-SR の治療成績(2012年〜現在まで)

採卵の成績
累積
実施症例数 58症例
実施周期数 96周期
採卵数 1182個
正常受精数 765個
生検胚率
(生検胚/正常受精卵)
44.6%
(341/765)
再生検率
(再生検/生検胚)
5.3%
(20/375)
染色体正常胚率
(正常胚/生検胚)
21.6%
(81/375)
胚移植の成績
累積
胚移植周期 63周期
妊娠率
(妊娠/移植周期)
65.1%
(41/63)
流産率
(流産/着床胚)
0.0%
(0/41)
出生数
(妊娠継続中)
41
(6)

PGT-A に該当される方

PGT-Aについて​

PGT-Aは、2022年日本産科婦人科学会の見解改定により、「不妊症および不育症を対象とした着床前胚異数性染色体検査」となりました。
治療を受ける女性の高齢化などにより、妊娠しない方や、流産を繰り返す方が増えています。その原因の一つとして胚の染色体の数の異常が挙げられています。染色体の数に異常があると、胚の多くは着床できません。また、着床できたとしても流産、死産となります。染色体の数の異常は胚の形では判りません。そこで、胚の染色体の数を調べ、異常のない胚を子宮に戻すことで、妊娠率を上げ、流産を減らすことが期待されています。​

対象となる方

A) 反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する方

B) 反復する流死産の既往を有する方

但し、夫婦のいずれかに染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている方を除きます。

PGT-A 実施まで​

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染色体検査の方法

こちらへ

PGT-Aの治療成績 (2020年~現在まで)
(反復ART不成功と反復流産症例のみ(PGT-SR含まず))

採卵の成績
累積
実施症例数 86症例
実施周期数 152周期
採卵数 825個
正常受精数 704個
生検胚率
(生検胚/正常受精卵)
40.2%
(283/704)
再生検率
(再生検/生検胚)
2.1%
(8/373)
染色体正常胚率
(正常胚/生検胚)
37.5%
(140/373)
胚移植の成績
累積
胚移植周期 109周期
妊娠率
(妊娠/移植周期)
53.2%
(58/109)
流産率
(流産/着床胚)
17.2%
(10/58)
出生数
(妊娠継続中)
48人
(18人)

染色体検査の方法

次世代シーケンサー(Next Generation Sequence:NGS)

NGSにより、染色体の過不足を検査します

移植可能胚 (46,XY)

移植不適胚  (48,XY,+12,+19)

【注意】NGSでは、染色体の形、倍数性異常、遺伝子の異常はわかりません

染色体検査の留意点

染色体検査は胚盤胞期胚で行います

胚盤胞期胚生検の理由

  • 1個の細胞には1組の染色体情報しかありません
    複数の細胞で検査を行うことで染色体解析精度が向上します
  • それぞれの細胞で染色体の数や構造に違いのあるモザイク胚が存在します
    そのため、複数の細胞を用いることでモザイクによる診断ミスを減らすことができます(分割期胚で30-50%、胚盤胞で10-20%)

PGT-SR / PGT-Aの問題点

  1. 自然妊娠で妊娠されている方も、体外受精を行わなければなりません。
  2. 体外受精費用と着床前検査の検査費用がかかります。
  3. 体外受精は一般的な治療になってきてはいますが、女性の体への負担が全くないわけではありません。
  4. 体外受精を行っても、検査できる受精卵が得られるとは限りません。
  5. 受精卵から細胞を取り出して検査をする際、胚に損傷を与える可能性があります。
  6. 診断した胚がすべて移植に適さない胚と診断され、移植できないことがあります。
  7. 胚移植することができた場合も、必ずしも妊娠できるとは限りません。
  8. 染色体には関係しない流産は、5~7%程度おこるといわれています。​
    検査を行っても流産を全て避けることはできません。
  9. 児の性別が判明しますが、性染色体に異常がある場合を除き、性別の開示はしません。また、性別は選択はできません。​
  10. 検査精度は100%ではありません。より正確な検査を希望される場合は、 妊娠後に羊水検査が推奨されます。
  11. 新しい治療法のため、生まれてきた児に影響がないとする報告がほとんどですが、児に対する長期的な影響は分かっていません。